2017年4月5日水曜日

リニア中央新幹線豊丘村本山の残土処分計画地のJR告書に日本科学者会議県支部が意見書を長野県へ提出

  JR東海旅客鉄道のリニア中央新幹線建設工事に絡み、日本科学者会議長野県支部(代表・野口俊邦信州大名誉教授)が、下伊那郡豊丘村本山のリニア中央新幹線トンネル残土処分計画地に関する意見書を県環境政策課に提出した。残土埋め立て工事が及ぼす周辺環境への影響について、JR東海旅客鉄道が2月に公表した調査報告書に対し、土地の安定性や水環境など6項目にわたって疑問を投げ掛けている

発生土置き場における環境の調査及び影響検討の結果について
(JR東海)
http://company.jr-central.co.jp/chuoshinkansen/efforts/nagano/posteriori_survey.html


以下その全文を掲示する

環境保全の見地からの意見書

平成29年 3月14日 
日本科学者会議長野県支部

1.報告書の名称(JR東海旅客鉄道が2月に公表した調査報告書名)
  豊丘村内発生土置き場(本山)における環境の調査及び影響検討の結果について

2.意見
1.土地の安定性に関する意見
上記報告書の「ページ4-2-2 土地の安定性」のうち「ページ4-2-2-6 (2)影響検討」については、検討解析手法が妥当でなく是正するように求める。
この検討では土地の安定性の解析を行っているが、地震時の安定性の解析は「道路土工―盛土工指針」(H22.4日本道路協会)に準拠している。しかし、この「道路土工―盛土工指針」の「第1章総説 1-1適用範囲 (1)指針の適用」の欄には次の記述がある。
「本指針は、主に道路盛土及び盛土に係わる排水施設の計画・調査・設計上の基本的な考え方や設計・施工・維持管理に関する手法、留意事項について示したものである。本指針は原則としてバイパス・現道拡幅等の新設、改良及び維持管理の事業を対象とするが、既設の道路の局部的な改良についても本指針を参考にすることができる」とされている。すなわち、この指針自体が本件のような山間地の谷埋め盛土のような状況を想定しておらず、この指針に準拠することは不適当である。
特に谷埋め盛土については1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災など、多くの地震災害によって、谷埋め盛土の安定解析手法そのものが見直されていることを鑑みると、地震時土砂災害や土砂流出災害を未然に防止するためにも、不適当な指針に準拠することは認められない。
また、同指針304ページの「付録2 地震動の作用に対する照査に関する参考資料」(別添)では「付表2-1は、既往の地震による盛土の被害事例について、地盤(地山)条件別に主な崩壊形態を整理して示したものである。このうち著しい被害は…山地部の沢地形を埋める盛土では浸透水が存在する場合に、…に生じている」として、地震時の盛土内部における間隙水圧の上昇によるすべり破壊の卓越について記述している。あわせて、「このような盛土の地震時安定性を評価する計算法はいくつか提案されているが、実用レベルで有効性が十分に検証されたものは少ない状況にある。地下水が関与して液状化現象を伴う被害形態についての安定化評価法については「道路土工-軟弱地盤対策工法」に委ねる」としている。
一方で、従来地震時の盛土の安定解析に用いられてきた二次元解析では、盛土内部の間隙水圧上昇による滑動崩壊現象について説明できないことが明らかとなっている。阪神淡路大震災における大小の谷埋め盛土の崩壊現象では、地山勾配が緩傾斜であるところが多く被災しているとの調査結果がある。この報告は「地震による大規模宅地盛土地すべりの変動メカニズム」(平成15年度~平成17年度科学研究費補助金研究成果報告書)(平成18年3月 釜井俊孝 京都大学防災研究所)として公表されており、この中で釜井らは「平均谷底傾斜が緩い盛土ほど変動した割合が高かったことになるが、これは物理法則に反する。おそらく、谷底の傾斜が他の要因、特に地形・地質的要因に影響していることを反映していると考えられる。このことは、谷埋め盛土の地すべりを説明する場合、通常の二次元縦断面だけでの議論では不十分であることを示していると考えられる」と述べている。
前述の「道路土工―盛土工指針の付録2」には、「実用レベルで有効性が十分に検証された」手法があることを認めているのだから、巨大な谷埋め盛土を行う事業者としては最善を尽くした解析検討を行うべきである。
11年前の京大防災研究所の報告書によって、日本の谷埋め盛土の地震時の安定解析は新しい段階に入っていることを考慮し、三次元解析を含むさまざまな手法を駆使して、より現実に即した、盛土の下流域で生活する住民にとって安全な手法を採用すべきである。
JR東海が行った調査結果では、盛土予定地には地すべり地形が発見されたとしている。影響検討では「できる限り地すべり地形を回避した」と述べているが、当該地域は花崗岩が風化したマサ土地帯であることは多くの住民も知っており、部分的に過去の地すべり地形を回避したとしても、地質条件としては滑動崩落現象の発生しやすい地域であることに変わりはない。
上記のことから、報告書の地震時安定解析手法は、地域の安全を考慮した妥当なものとなっていないので再検討し、それに併せて盛土構造そのものも是正すべきである。

2.土地の安定性の事後調査について
上記報告書「ページ4-2-2-9 ウ、事後調査」では、「検討結果の不確実性の程度が小さいこと、また採用した環境保全措置についても効果に係わる知見が蓄積されていると判断できることから、環境影響評価法に基づく事後調査は実施しない」と述べているが、前述のように地震時の安定解析は地下水位の変動によって大きく変化するものであり、まさに「不確実性の高い」解析であることから、事後調査などしないというのは責任放棄も甚だしく、再検討すべきである。
JR東海は「地下水位は水抜きをするので大丈夫だ」と県の委員会で述べたと報道されているが、盛土の水抜きや有孔管などは時間の経過とともに目詰まりすることは常識である。しかも盛土材料は花崗岩の粉砕土砂であり、降雨とともに微細な土粒子ほど早期に水抜き部分に集結するので目詰まりは必ず発生し、徐々に盛土部の地下水位は上昇することになる。
一方でJR東海は豊丘村の住民説明会(2017年1月30日)において、JRが実施する盛土完成後の維持管理について「(切り開いた)山林の保水能力が回復するまで」の期間とする旨の発言をしている。ここでいう「切り開いた山林の保水能力」とは盛土部分の保水能力としか考えられないが、そうだとすると盛土の水抜きや有孔管が目詰まりして地下水位上昇が安定した頃に、管理を地権者へ戻すということになる。
県の技術委員会では「水抜きで地下水位は下がるから大丈夫」と発言し、地域住民には「保水能力が回復したらお返しします」と述べているのは、地震時の安定解析を県には都合よく説明しているだけであって、最も危険な状態になってから管理を地権者に返還するという、とんでもない計画である。「山林の保水能力」とは土壌中の水分が毛細管現象によって地表面近傍にまで上昇することにより確認されるものであり、透水性の高い花崗岩の粉砕土砂の盛土ではかなりの程度まで地下水位が上昇していなければ保水能力の回復は見られないはずである。
「山林の保水能力が回復したとき」すなわち「盛土部の地下水位が安定的に上昇しているとき」というのは、盛土が地震時に滑動崩落する最も重要な条件の一つであって、このような時期に「維持管理を地権者にお返しする」などという計画は絶対に認められない。
JR東海が盛土部の管理に責任を持つというのならば盛土内に多数の地下水位観測井や間隙水圧観測孔とセンサーを設置し、その記録を連続的に監視する体制を整えるべきである。「ある一定期間が経過したら管理は地権者へ戻す」などというのは、危険な状態を知りつつそれを隠蔽して譲り渡す行為であり、許されることではない。
事後調査と常時監視は盛土がある限り継続しなければならないのであり、ツケを後年の地元住民に回すようなことはしてはならない。

3.水環境への影響について
報告書「4-1水環境」については、地域住民が懸念している盛土からの土砂流出について検討がなされておらず、再調査と検討が必要である。
報告書ページ4-1-1の冒頭には次のような記述となっている。
「a)検討項目」では「発生土置き場の設置に係わる浮遊物質量(SS)による影響とした」
「b)検討の基本的は手法」では「発生土置き場の設置に係わる浮遊物質量(SS)の影響について配慮事項を明らかにすることにより定性的に検討した」
「e)検討対象時期」では「工事中とした」
そもそも巨大な谷埋め盛土を行い、それによって引き起こされる「水環境」への影響を検討するというのに「水の濁りに係わる環境影響」だけを取り上げ、しかも「工事期間中」に限定し、「配慮事項を明らかにして定性的に検討」するというのは、最初から「将来にわたって影響などない」という結論を導こうとする論理に他ならない。水環境の調査を一般的な河川水質調査と同等に扱うことは、巨大な盛土を山間地に施工する際の環境影響評価として著しく不適当であり、再調査、再検討すべきである。
本件において水環境への影響を検討するのなら、以下の点について検討すべきである。
①濁水発生の影響(晴天時と降雨時のそれぞれについて工事中と工事完了後の定量的検討)
②降雨時土砂流出の影響(工事前、工事中と工事完了後の定量的検討)
③土砂(濁水)流出が河川環境の将来に与える影響(魚類と水生生物への影響を含む)
④土砂流出を自然状態と同等程度に抑制する施設の維持管理。あるいは自然状態より多量の土砂流出を予測した場合の河川環境への影響と河川管理のあり方。
まず、「発生土置き場の設置に係わる浮遊物質量(SS)による影響」を検討するのであるから、検討手法としては現況での降雨量とそれに伴うSS流出量を測定し、盛土工事時と完成後の降雨時におけるSS流出量を予測比較して、その上で環境保全措置としての沈砂地の容量や維持管理について検討するというのが環境影響評価のあり方である。すなわち、定量的な評価をしなければ有効な環境影響の検討とはならない。
盛土前の自然状態と比較して、山地を切り開き盛土を行っている工事中と完成後のSS流出量は降雨形態によって大きく変化するはずである。盛土による土砂災害などを想定するまでもなく、降雨によって盛土された土壌粒子が下流域に流出するのは当然のことであり、地域住民が懸念しているのは「それらの流出土砂がどの程度の期間でどの程度の量が流出するのか」という点である。
しかもこのSS(土砂)流出問題を工事中だけに限ってしまうのは、極めて意図的なものであると言わざるを得ない。
巨大な盛土を山中に行うのであるから、「水環境」を「水質」問題だけでなく、サースケ洞から天竜川に至る河川環境全体の問題として捉えるべきである。130万㎥の土砂が長期間にわたって(あるいは我々の子や孫たちの時代に)も工事完了時そのままの状態で存在するとはだれも考えないはずである。なぜなら、この地域の者はみな降雨時に天竜川とその支川がすぐに濁水となることをよく知っており、頻繁に水路や小河川の泥上げに苦労しているからである。豊丘村だけでなく伊那地域には天井川が多数出現しており、それだけ河川への土砂流出は住民にとって重大な問題なのである。盛土部分は自然の山間地より土砂流出量がどの程度多くなるかという点について環境影響を予測することは極めて重要な検討事項である。
また、この「4-1水環境」が「水の濁り」に係わる検討というならば、降雨後の晴天時に継続する濁水の影響についても定量的に検討すべきである。この点では天竜川を漁場とする下伊那漁協に対して、濁水の影響範囲、継続時間について検討した結果を漁協に提出し、意見を求めてから配慮事項を改めて検討すべきである。その際は「4-1-2 河川環境」を追加して前述の土砂流出に関する解析検討を記載する事が必須事項である。

4.「水環境」の事後調査について
また、ページ4-1-1-8の「ウ)事後調査」では「検討結果の不確実性は小さいこと、また採用した環境保全措置についても効果に係わる知見が蓄積されていることから、事後調査は実施しない」と記述しているが、これも訂正すべきである。
これまで述べたように、盛土地域の下流域における河川環境は、工事完成後も経年的に大きく変化することが予測されるはずであるから、「不確実性」は極めて大きいといわなければならない。盛土した土砂の相当量が近い将来にサースケ洞から虻川へ流出する前に、危険を予測して直ちに対策を講じる監視体制を確立しておくべきであり、河川環境全体の問題として検討しなければならない。
盛土の面積は80,000㎡である。降雨時の表面流出に伴う土砂流出は時間の経過とともに、表層水路の有効断面積も縮小させ、次第に土砂は下流域へ流出する量が増大する一方で、表層に設置した側溝天端に流入できなくなった雨水はそのまま地下浸透するという事態となる。
流出土砂と地下水位の継続的な監視は下流域の危機管理のためには必ず実施しなければならない。
河川環境とそこに生息する生物との関連で言えば、事後の調査こそ決定的である。
「3-3専門家等による技術的助言」のページ3-16「主な技術的助言の内容」の「魚類、底生動物」の項では「濁水対策として沈殿池を設置する必要がある」「これらは濁水に弱いことから…岩表面にシルトがつかないようにする濁水対策が必要となる」と記述されている。しかし、これは工事中の濁水対策に限ったことを指しているが、現実には盛土完了後も濁水が継続することは大いにあり得ることなので、特に内水面漁業者らはそのことを大変懸念しているのである。
内水面漁業を生業としている団体からの技術的助言を聴取することもしないこのような態度は、工事が終了してから濁水が問題となっても「工事前と変わらない状態だ」としてこの問題を回避しようとする意図があるのではないかと思わざるを得ない。
河川環境の、とりわけ降雨時とその後の濁水継続時間と流出量の環境影響は、事前調査と事後調査の定量的解析が不可欠である。

5.調整池と流出土砂の維持管理について
「配付資料30」には調整池の図面が掲載されている。この調整池の容量は1400㎥となっているが、もともとこの容量は盛土完了後に洪水調節機能と計画堆砂量を貯留させる機能を併せ持っているはずである。調整池に上流の盛土部から流出する土砂の貯留機能を持たせるには、流出土砂量の予測をしなければならないが、県の防災調整池等技術基準や林地開発許可に関する技術的細部基準では、裸地の設計堆積土砂量として200~400㎥/年/haを基準にして算定するようにしている。
また、技術的細部基準ではこの解説として「上流に土砂留施設を計画していないときは、3年から5年間(工事中、工事後合算)の流出土砂量を処理できる容量の調節池とするとともに、維持管理方法についてもあきらかにすること」と記されている。
本計画地は盛土部の面積が8㏊であるから、設計堆積土砂量を最小に見積もっても1600㎥/年の堆積土砂となり、調整池はわずか1年経ずして埋没してしまう可能性がある。
このことから盛土最下流に設置される調整池容量そのものの機能が盛土工事完了後のわずかな期間に埋まってしまうことのないように調整池容量の再検討をすべきであり、あわせて「技術的細部基準」にあるように「維持管理手法についても誰がどのように管理するのか」を明らかにすべきである。
伊那地域の住民は流域周辺ダムや砂防ダムの堆砂速度が早いことをよく知っており、この調整池の堆砂機能の維持については強い関心を持っている。
前述の「水環境への影響」を検討する上でも、調整池の土砂貯留機能は決定的な意味を持っており、かつこの維持管理は下流住民の生活環境を防衛する上でも重要なテーマであることは論を待たない。
もし、「1400㎥の調整池があるから下流域への盛土の土砂流出はあり得ない」とするなら、その根拠を述べるとともに、将来にわたって継続してこの調整池の機能を持続させる手法について記述すべきである。それなしに「土砂流出による環境影響はない」とすることはあり得ない。

6.土砂流出の危機管理について
本報告は130万㎥の土砂を谷埋め盛土するというのに、それらが将来的に流出することをほとんど検討しないというのでは、環境影響検討として極めて不十分なものといわざるを得ない。
前述の調整池容量計算でも解るように、事業者は流出土砂について低いレベルに見積もっていることが歴然としている。しかし、盛土は工事完了後に長期間そのままの状態であることはあり得ず、事業者が環境影響を検討するのであれば、将来的にどのような状況で、どの程度の土砂流出が発生するのか予測し明示することは避けて通れない検討課題である。
流域住民が最も懸念するのは、盛土の一部が流出を繰り返しながらサースケ洞を流下し、虻川との合流点に流入することである。降雨量、降雨強度によっては流出土砂がサースケ洞を短期間に流下する可能性は否定できないのである。とすれば、調整池容量を考慮しつつも、急激な土砂流出を抑制・防御する施設を多段にわたって設置することが必要である。
通常の降雨時の雨水は下流へ流出させつつ、危機的な土砂流出はとりあえず防止する工夫も検討すべきであり、併せてこの施設の維持管理についても責任の所在を明らかにしておくべきである。
今回の事業者の計画は、林地開発における盛土量としてはこれまでの常識をはるかに超える規模になっており、しかも降水により浸食された谷すじに残土を投入しようとするものである。
盛土部からの土砂流出に関する危機管理施設の設置とその維持管理については、新たに検討をおこない、その内容・結論を報告すべきである。前述の盛土内部の地下水位観測井や間隙水圧観測孔及びセンサーの設置などもこの危機管理施設の重要な柱である。
盛土崩壊の要因となる地下水位の上昇や土砂流出について検討を行うこともなく、谷埋め盛土の工事を開始することは絶対に認められない。



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